「いつやめるか」は、誰にとっても難しい問い
不妊治療には、明確な「ここまで」というゴールラインがありません。回数を重ねるほど、「ここでやめたら、これまでの時間やお金が無駄になるのではないか」という思いが生まれることもあります。
治療を終えるという決断は、とても重いものです。けれど、長い時間をかけて向き合ってきた自分たちだからこそ、たどり着く選択のひとつです。
治療の終結を考えるタイミング
治療を終える判断は、何かひとつの基準で決められるものではありません。さまざまな要素が複雑に絡み合っています。以下は、終結を考える際に参考になるかもしれない視点です。
医学的な観点
- 主治医から、これ以上の治療継続について率直な説明があった場合
- 保険適用の回数上限に達した場合(自費での継続も選択肢のひとつです。自治体によっては保険適用外でも独自の助成制度がある場合があります。また、治療方針の見直し(別のアプローチの検討)について主治医と相談されることもできます)
- 体の状態から、治療の継続が難しいと判断された場合
- これまでの治療経過と現在の状態から、別のアプローチを検討する段階に来た場合
心身の状態
- 治療が日常生活の大部分を占め、それ以外のことが考えられなくなっている
- 精神的な限界を感じている
- パートナーとの関係に深刻な影響が出ている
経済的な状況
- 治療費が家計を著しく圧迫している
- 自費治療の継続が経済的に困難になっている
どのタイミングで終結を決断するかに「正解」はありません。自分たちが納得できるかどうかが、判断のポイントになります。
主治医との話し合い方
治療を終えることを考え始めたとき、主治医に相談することが助けになります。
- これまでの治療経過を振り返り、今後の見通しについて率直に聞く
- 「あとどのくらい続ければ可能性があるか」ではなく、「このまま続けることのメリットとデメリット」を確認する
- 主治医の意見は重要な情報ですが、最終的な決断はあなたとパートナーのものです
- セカンドオピニオンを求めることも選択肢のひとつです
気持ちの整理 — 悲しみは否定しなくていい
治療を終えると決めた後、さまざまな感情が押し寄せてくることがあります。悲しみ、喪失感、安堵、後悔、怒り。これらの感情はどれも自然なものであり、否定する必要はありません。
グリーフケアという考え方
不妊治療の終結は、「思い描いていた未来の形」を手放すことでもあります。この喪失感は、グリーフ(悲嘆)として認められるべきものです。
- 悲しみに「期限」はありません。自分のペースで向き合ってください
- 「もう乗り越えたはず」と思った後に、再び悲しみが訪れることもあります。それも自然なことです
- パートナーと悲しみのタイミングや深さが違っても、おかしなことではありません
- 男性は社会的に「強くあるべき」と期待されがちで、悲しみを表に出しにくいと感じることがあるかもしれません。つらいときはつらいと言ってよいのです
専門的なサポート
- 不妊カウンセラーやグリーフカウンセラーに話を聞いてもらう
- 同じ経験をした人とのピアサポートグループに参加する
- 気分の落ち込みが長く続く場合は、心療内科への相談も検討する
治療を終えた後の選択肢
治療を終えた後の人生には、さまざまな道があります。ここでは情報としてお伝えしますが、どれかを選ぶべきだという意図はありません。
特別養子縁組
さまざまな事情で生みの親が育てられない子どもを、法的に自分の子どもとして迎え入れる制度です。児童相談所や民間の養子縁組あっせん機関を通じて手続きを行います。研修や家庭調査などの過程があり、マッチングまでに時間がかかる場合があります。
里親制度
さまざまな事情で家庭での養育が困難な子どもを、一定期間預かる制度です。養育里親、専門里親、親族里親などの種類があります。各自治体の児童相談所で相談できます。
今の生活を豊かにする
パートナーや家族との今の生活を、自分たちらしく過ごしていくことも選択肢のひとつです。すでにお子さんがいる方にとっては、今の家族との時間を大切にしながら、自分たちのペースで歩んでいく選択でもあります。
周囲との関係
治療を終えたことを周囲にどこまで伝えるかは、自分たちで決めて構いません。
- すべての人に説明する必要はありません
- 「子どもは?」「二人目は?」と聞かれたときの返し方を、事前にパートナーと決めておくと楽になることがあります
- 理解してくれる人との関係が、心強い味方になります
- デリカシーのない質問に傷つくことがあっても、自分を責めないでください
「決断を尊重する」ということ
不妊治療を終える決断は、当事者にしか分からない重さを持っています。この記事を読んでいる方が当事者であっても、身近な方のことを思って読んでいる方であっても、ひとつだけお伝えしたいことがあります。
どんな決断であっても、そこに至るまでに積み重ねてきた時間と気持ちには、かけがえのない重みがあります。その決断は、尊重されるべきものです。
治療を終えたその先にも、人生は続きます。その歩み方を決めるのは、他の誰でもなく、あなたたち自身です。
