食事で妊娠率は変わるのか
「何を食べれば妊娠しやすくなりますか?」 — 不妊治療中に多くの方が持つ疑問です。結論から言うと、特定の食品を食べれば妊娠できるという魔法のような答えはありません。ただし、バランスの取れた食事が全身の健康、そして生殖機能の維持に貢献することは、複数の研究で示されています。
この記事では、科学的なエビデンスに基づいて、妊活中に意識したい栄養素と食事のポイントを整理します。「あれを食べなきゃ」「これはダメ」とプレッシャーに感じるのではなく、できる範囲で取り入れていただければ十分です。
意識したい栄養素
葉酸
妊娠を考え始めたら最初に意識したい栄養素です。厚生労働省は、妊娠を計画している女性に1日400μgの葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。
- 胎児の神経管閉鎖障害のリスクを下げるとされている
- 食事からだけでは推奨量を摂るのが難しいため、サプリメントでの補充が勧められている
- ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、レバーなどに多く含まれる
鉄
月経のある女性は鉄が不足しがちです。鉄欠乏は貧血だけでなく、卵巣機能にも影響する可能性が指摘されています。
- ヘム鉄(肉、魚)は非ヘム鉄(野菜、豆類)より吸収率が高い
- ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が向上する
- 不妊治療中の血液検査でフェリチン(貯蔵鉄)の値を確認してもらうのがおすすめ
亜鉛
亜鉛は男女ともに重要な栄養素です。
- 女性:卵胞の発育やホルモン産生に関わるとされている
- 男性:精子の形成に不可欠な栄養素。不足すると精液所見に影響する可能性がある
- 牡蠣、牛肉、ナッツ類、チーズなどに多く含まれる
パートナーの方へ:亜鉛は男性の生殖機能にとって特に重要な栄養素です。サプリメントで補うことも一つの方法ですが、まずは食事で意識してみるところから始めてみてください。
ビタミンD
近年の研究で、ビタミンDの血中濃度と妊娠率の関連が報告されています。
- 日本人女性はビタミンD不足の方が多いとされている(日光に当たる時間が少ない、日焼け止めの使用など)
- 血液検査で25(OH)Dの値を確認し、不足している場合はサプリメントでの補充を検討
- 鮭、きのこ類、卵に含まれる
オメガ3脂肪酸
魚に多く含まれるDHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸は、抗炎症作用があり、卵巣機能や子宮内膜の状態に良い影響を与える可能性が研究されています。
- 週に2回以上、魚を食べることが推奨されている(厚生労働省の食事バランスガイド)
- マグロやメカジキなどの大型魚は水銀の蓄積があるため、週に1回程度に控える
避けたほうが良いもの
- 過度なアルコール:飲酒が妊孕性に及ぼす影響についてはまだ議論がありますが、妊娠の可能性がある期間は控えめにするのが一般的な推奨です
- 過度なカフェイン:1日200〜300mg以下(コーヒー2杯程度)なら問題ないとされていますが、過度な摂取は避けましょう
- トランス脂肪酸:一部の研究で排卵障害との関連が示唆されています。加工食品やマーガリンに多く含まれる
PCOSの方へ:PCOSとインスリン抵抗性は関連が深く、血糖値の急激な上昇を避ける食事(低GI食)が症状改善に寄与する可能性が研究されています。白米より玄米、菓子パンより全粒粉パンなど、できる範囲で置き換えてみるのも一つの方法です。詳しくは主治医や管理栄養士に相談してみてください。
「○○を食べると妊娠する」情報への向き合い方
インターネットやSNSには、特定の食品やサプリメントが妊娠に効くという情報があふれています。こうした情報に振り回されてストレスを感じるのは、かえって逆効果です。
判断の基準として覚えておきたいポイントは以下の通りです。
- 「個人の体験談」と「科学的エビデンス」は別物です
- 「○○で妊娠しました!」は、その食品のおかげかどうかは分かりません
- 高額なサプリメントが必ずしも効果的とは限りません
- 食事のことで迷ったら、主治医や管理栄養士に相談するのが確実です
治療中の食事で気をつけたいこと
- ホルモン剤の副作用で食欲が変動する:排卵誘発剤やプロゲステロンの影響で、食欲が増えたり減ったりすることがあります。体重の増減を気にしすぎず、食べられるものを食べることを優先してください
- 採卵前後:タンパク質と水分をしっかり摂ることが勧められることが多いです
- お子さんがいる方:自分の食事まで手が回らないことも多いと思います。完璧な食事を目指す必要はありません。補えない分はサプリメントで対応するという割り切りも大切です
この記事のポイント
- 特定の食品で妊娠できるわけではないが、バランスの良い食事は全身の健康に寄与する
- 葉酸(400μg/日)は妊娠を考え始めた段階から摂り始める
- 鉄・亜鉛・ビタミンDは不足しがちな栄養素。血液検査で確認を
- 不確かな情報に振り回されず、迷ったら主治医に相談
サプリメントの選び方についてはサプリメントガイドで、心身の健康管理についてはセルフケアの記事もご参照ください。
出典
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- 厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
