無精子症とは
無精子症は、射出した精液の中に精子がまったく見つからない状態です。男性の約1%、男性不妊患者の約10〜15%に見られます。
「精子がゼロ」と聞くと、「もう子どもは無理なのでは」と感じるかもしれません。しかし、無精子症でも治療の選択肢はあります。種類によってアプローチが異なるため、まず正確な診断を受けることが大切です。
無精子症の2つのタイプ
閉塞性無精子症(OA: Obstructive Azoospermia)
精子は精巣で作られているが、精子の通り道(精管や精巣上体)が詰まっていて精液に出てこない状態です。
- 全無精子症の約40%を占める
- 原因:先天的な精管欠損、過去の手術(ヘルニア手術等)による損傷、感染症後の癒着など
- 精巣の大きさは正常で、ホルモン値(FSH)も正常範囲であることが多い
- 精子は精巣内に存在するため、精子回収率は高い
非閉塞性無精子症(NOA: Non-Obstructive Azoospermia)
精巣での精子産生自体に問題がある状態です。
- 全無精子症の約60%を占める
- 原因:遺伝的要因(クラインフェルター症候群、Y染色体微小欠失など)、精巣の発育不全、原因不明
- FSH(卵胞刺激ホルモン)が高値を示すことが多い
- 精子回収率は閉塞性に比べて低いが、micro-TESEにより30〜50%程度で精子が見つかる
診断の流れ
- 精液検査(2回以上):遠心分離しても精子が見つからないことを確認
- ホルモン検査:FSH、LH、テストステロンの測定(閉塞性 vs 非閉塞性の鑑別に重要)
- 精巣の超音波検査:精巣の大きさ、精巣上体の異常、精索静脈瘤の有無を確認
- 染色体検査・遺伝子検査:クラインフェルター症候群やY染色体微小欠失の確認
治療の選択肢
精路再建術(閉塞性の場合)
精管や精巣上体の詰まりを外科的に修復する方法。成功すれば自然妊娠や人工授精が可能になります。
精子回収術(TESE / micro-TESE)
精巣から直接精子を取り出す手術です。回収した精子は顕微授精(ICSI)に使用します。
- TESE(精巣内精子回収術):閉塞性の場合に用いられることが多い。精巣の組織を少量採取し、精子を探す
- micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子回収術):非閉塞性の場合に推奨。手術用顕微鏡で精子が作られている可能性のある精細管を見つけて採取。精巣へのダメージを最小限に抑えられる
手術は全身麻酔で行われ、日帰り〜2泊程度の入院が一般的です。
精子が見つからなかった場合
micro-TESEでも精子が見つからない場合があります。その場合の選択肢として:
いずれの選択も、十分な時間をかけて二人で話し合ったうえで決めてください。まずはクリニックの心理士や生殖医療専門のカウンセラーに相談することを、最初の一歩にしてみてください。
費用の目安
- TESE:10万〜20万円程度(保険適用の場合)
- micro-TESE:20万〜50万円程度(自費の場合。先進医療として保険併用可能な施設もある)
- 精子凍結費用:年間1万〜3万円程度
パートナーの方へ
無精子症の診断は、どちらにとっても大きな出来事です。すぐに次のステップに向かわず、まずお互いの気持ちを共有する時間を持つことが大切です。
- 診断を聞いた直後は、解決策を急がず「一緒に受け止めよう」と伝える
- 「二人の問題だから、一緒に考えよう」と伝える
- 情報収集は焦らず、信頼できる男性不妊専門の医師に相談する
- 必要であればカウンセリングを二人で受ける
この記事のポイント
- 無精子症は男性の約1%に見られる。珍しくはない
- 閉塞性と非閉塞性の2タイプがあり、治療法が異なる
- micro-TESEにより、非閉塞性でも30〜50%で精子が見つかる
- 精子が見つからない場合も、家族を持つ選択肢はある
精子回収術の詳細はTESE・MESAの記事を、男性不妊の全体像は男性不妊の基礎知識をご参照ください。
出典
- 日本泌尿器科学会「男性不妊症診療ガイドライン」
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
