自然周期と刺激周期の違い 図解

体外受精の採卵方法は一つではない

体外受精を始めるとき、最初に直面する選択の一つが「どの方法で採卵するか」です。大きく分けると、排卵誘発剤をほとんど使わない「自然周期法」と、薬を使って複数の卵子を育てる「刺激周期法」があります。

どちらが正解ということではなく、年齢や卵巣の状態、治療の方針によって向き不向きがあります。この記事では、それぞれの特徴を整理して、担当医と相談するときの材料にしていただければと思います。

自然周期法とは

自然周期法は、排卵誘発剤を使わない(またはごく少量のみ使う)方法です。毎月の自然な排卵サイクルを利用して、育った卵胞から1個(まれに2個)の卵子を採取します。

自然周期法の流れ

  • 月経開始後、数回の超音波検査で卵胞の成長を確認
  • 卵胞が十分に育ったタイミングで採卵日を決定
  • 採卵は通常、局所麻酔または無麻酔で行われることが多い
  • 採取した卵子を体外受精または顕微授精で受精させる

自然周期法の特徴

  • 身体への負担が少ない:排卵誘発剤による副作用(お腹の張り、頭痛など)がほぼない
  • 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがほぼない:薬を使わないため、OHSSの心配が少ない
  • 通院回数は比較的少ない:ただし、排卵のタイミングを逃さないための通院は必要
  • 採取できる卵子は基本的に1個:受精しなかった場合や胚が育たなかった場合は、その周期の移植はできない
  • 毎月トライできる:卵巣を休ませる期間が不要なため、連続して治療を行える

刺激周期法とは

刺激周期法は、排卵誘発剤を使って複数の卵胞を同時に育て、一度の採卵で複数の卵子を採取する方法です。使う薬の量や種類によって、高刺激と低刺激に分かれます。

高刺激法(ロング法・アンタゴニスト法など)

  • 注射タイプの排卵誘発剤(FSH/HMG製剤)を連日投与
  • 一度の採卵で5〜20個程度の卵子が採れることがある
  • 余剰胚を凍結保存できるため、一度の採卵から複数回の移植が可能
  • OHSSのリスクがある(特に若い方やPCOSの方)

低刺激法(クロミッド法・レトロゾール法など)

  • 内服薬を中心に、少量の注射を併用することもある
  • 一度の採卵で2〜5個程度の卵子を目指す
  • 高刺激法に比べて身体への負担が少ない
  • OHSSのリスクが低い
  • 採卵できる卵子の数は高刺激法より少ない

メリット・デメリット比較

それぞれの方法を比較すると、以下のような違いがあります。

  • 採卵数:自然周期は1個が基本、低刺激は2〜5個、高刺激は5〜20個程度
  • 身体への負担:自然周期が最も少なく、高刺激が最も大きい
  • OHSSリスク:自然周期はほぼなし、低刺激は低い、高刺激は注意が必要
  • 薬剤費用:自然周期が最も低く、高刺激が最も高い
  • 凍結胚の可能性:自然周期はほぼなし、刺激周期は余剰胚を凍結できる
  • 1回の採卵あたりの妊娠率:採卵数が多いほど移植のチャンスが増えるため、累積妊娠率は刺激周期の方が高くなる傾向
  • 連続治療:自然周期は毎月可能、高刺激は卵巣を休ませる期間が必要なことがある
  • 通院頻度:高刺激は注射のための通院が多くなる場合がある

どちらが向いている?

一人ひとりの状況によって適した方法は異なります。以下は一般的な目安です。

自然周期法が向いているケース

  • 卵巣予備能が低い方(AMHが低い、FSHが高い):刺激をかけても卵子が増えにくいため、自然に育つ1個を大切にする方針
  • OHSSのリスクが高い方:PCOSの方や、過去にOHSSを経験した方
  • 薬の副作用に敏感な方:排卵誘発剤で体調が大きく崩れた経験がある場合
  • 治療のペースをゆっくりにしたい方:身体への負担を最小限にしながら進めたい場合

刺激周期法が向いているケース

  • 年齢が高めの方(38歳以上):一度の採卵で複数の卵子を確保し、凍結胚を作っておくことで、移植の選択肢を広げられる
  • 卵巣予備能が十分にある方:刺激に反応して複数の卵子が育ちやすい
  • 効率を重視する方:仕事との両立などで、採卵の回数をなるべく少なくしたい場合
  • 着床前検査(PGT)を希望する方:検査には複数の胚が必要なため、刺激周期で多くの胚を確保する方が向いている

クリニックの方針差を理解する

クリニックによって、採卵方法に対する考え方は異なります。

  • 自然周期を主体とするクリニック:「卵子の質は数では補えない」という考えに基づき、自然に育った卵子を重視する方針
  • 刺激周期を主体とするクリニック:「一度の採卵で多くの胚を確保することが、結果的に妊娠への近道」という考え方
  • 患者さんの状態に応じて使い分けるクリニック:年齢やAMH、過去の治療歴を踏まえて、個別に方針を決定する

どの方針が「正しい」ということではありません。大切なのは、クリニックがなぜその方法を推奨しているのかを説明してくれることです。方針に納得できない場合は、セカンドオピニオンを検討することも一つの選択肢です。

担当医との相談ポイント

採卵方法について担当医と相談するとき、以下の点を確認しておくと、自分に合った方法を選びやすくなります。

  • 「私の年齢とAMH値から、どの方法が適していますか?」:卵巣予備能に合った方法を確認する
  • 「それぞれの方法で、採卵できる卵子の数はどれくらい見込めますか?」:期待値を事前に把握する
  • 「OHSSのリスクはどの程度ありますか?」:特にPCOSの方や過去にOHSSを経験した方は重要
  • 「費用の違いはどれくらいですか?」:薬剤費は方法によって大きく異なる。保険適用の範囲も確認する
  • 「もし最初の方法でうまくいかなかった場合、次はどうしますか?」:先の見通しを持っておくと安心

メモを持参したり、パートナーと一緒に聞いたりすると、後から「聞きそびれた」ということを防げます。

まとめ

自然周期法と刺激周期法は、どちらが優れているという関係ではなく、一人ひとりの身体の状態や治療の段階に合わせて選ぶものです。

  • 自然周期法は身体への負担が少なく、卵巣予備能が低い方やOHSSリスクが高い方に向いている
  • 刺激周期法は一度に多くの卵子を確保でき、凍結胚を作れるメリットがある
  • クリニックの方針にはそれぞれの考え方がある。説明に納得できるかどうかが大切
  • 担当医に自分のAMH・年齢に合った方法を確認し、費用やリスクも含めて相談する

体外受精の全体像については体外受精の記事を、クリニック選びについてはクリニックの選び方の記事もご参照ください。

出典

  • 日本産科婦人科学会「生殖医療ガイドライン」
  • 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」