新鮮胚移植と凍結胚移植、何が違うの?
体外受精や顕微授精を進めるなかで、「新鮮胚移植にしますか? 凍結胚移植にしますか?」と聞かれて戸惑った方は少なくないはずです。どちらも大切な胚を子宮に戻す工程ですが、タイミングや身体への影響が異なります。
この記事では、それぞれの方法の特徴やメリット・デメリット、そして気になる妊娠率のデータまで整理しました。主治医と相談するときの予備知識として、ぜひ参考にしてください。
新鮮胚移植とは
新鮮胚移植は、採卵した周期のうちに受精卵(胚)を子宮へ戻す方法です。受精後2〜3日目の「初期胚」、または5〜6日目まで培養した「胚盤胞」を、凍結せずそのまま移植します。
新鮮胚移植の流れ
- 採卵日に精子と受精させる(体外受精または顕微授精)
- 培養室で2〜6日間培養する
- 同じ周期内に、カテーテルで子宮腔内へ胚を移植する
採卵から移植までが一つの周期で完結するため、スケジュールがコンパクトになる点が特徴です。
凍結胚移植とは
凍結胚移植は、受精卵をいったん超低温(−196℃の液体窒素)で凍結保存し、別の周期に融解して子宮へ戻す方法です。現在の主流はガラス化凍結法(Vitrification)と呼ばれる技術で、融解後の胚の生存率は95%以上とされています。
凍結胚移植の流れ
- 採卵周期に受精・培養まで行い、胚を凍結保存する
- 次の周期以降、ホルモン補充または自然排卵に合わせて子宮内膜を準備する
- 内膜の厚さやホルモン値が整ったタイミングで胚を融解・移植する
移植のタイミングを柔軟に調整できるため、子宮内膜の状態をしっかり整えてから臨める点が大きな利点です。
それぞれのメリット・デメリット
新鮮胚移植のメリット
- 採卵から移植まで1周期で完了するため、通院回数や期間を短縮できる
- 凍結・融解の工程がないため、その分の費用がかからない
- 胚を凍結するプロセス自体を避けたい方にとって心理的な安心感がある
新鮮胚移植のデメリット
- 排卵誘発によってホルモン値が大きく変動している状態で移植するため、子宮内膜の受容性が最適でない場合がある
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがある場合、移植自体を見送る判断が必要になることもある
- 採卵と移植のスケジュールが固定されるため、体調や仕事との調整がしにくい
凍結胚移植のメリット
- 子宮内膜を十分に整えたうえで移植できるため、着床環境を最適化しやすい
- OHSSリスクが高い場合、採卵周期の移植を回避してリスクを下げられる
- 複数個の胚を凍結保存しておけば、2人目以降の妊娠にも活用できる
- PGT-A(着床前遺伝学的検査)を行う場合、結果を待ってから移植できる
凍結胚移植のデメリット
- 凍結・融解の費用が追加でかかる(施設により3〜8万円程度)
- 移植が翌周期以降になるため、全体のスケジュールが長くなる
- ごくまれに融解時に胚がダメージを受ける可能性がある(現在の技術では生存率95%以上)


妊娠率のデータ——凍結胚移植は同等かやや良好
多くの方が最も気になるのは「どちらが妊娠しやすいのか」という点でしょう。近年の大規模研究やメタ解析の結果をまとめると、凍結胚移植の妊娠率は新鮮胚移植と同等、もしくはやや良好とされています。
日本産科婦人科学会のARTデータによると、凍結胚移植の移植あたりの妊娠率は約35〜40%で、新鮮胚移植の約25〜30%を上回る傾向が見られます。この差が生じる主な理由は以下の通りです。
- 凍結胚移植では、排卵誘発によるホルモンの乱れが落ち着いた状態で移植できる
- 子宮内膜の準備を個別に最適化できる
- 凍結・融解の過程でダメージを受けた胚は発育が止まるため、結果的に生命力の強い胚が選ばれる側面がある
ただし、年齢や胚の質、子宮内膜の状態など個人差が大きいため、「凍結のほうが絶対に良い」と一概には言えません。主治医がどちらを推奨するかは、その方の状態に合わせた総合的な判断です。
OHSSリスクがある場合は凍結胚移植が安全策に
排卵誘発で多数の卵胞が育った場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症するリスクが高まります。OHSSは卵巣が腫れて腹水がたまる状態で、重症化すると入院が必要になることもあります。
新鮮胚移植を行うと、妊娠によるhCGホルモンの上昇がOHSSをさらに悪化させる可能性があります。そのため、OHSSリスクが高いと判断された場合は、採卵周期での移植を見送り、全胚凍結(Freeze All)を選択するのが現在の標準的な対応です。
全胚凍結にした場合、身体が回復した翌周期以降に安全に移植を行えます。「移植を見送る」と聞くと不安になるかもしれませんが、身体を守りながら妊娠率も下げない合理的な選択です。
どちらを選ぶか——判断のポイント
最終的にどちらの方法を選ぶかは、主治医との相談で決まります。以下のような状況が判断材料になります。
新鮮胚移植が検討されやすいケース
- 排卵誘発がマイルドで、OHSSリスクが低い場合
- 採卵数が少なく、得られた胚をその周期のうちに移植したい場合
- 通院スケジュールをなるべく短くしたい希望がある場合
凍結胚移植が検討されやすいケース
- 排卵誘発で多数の卵胞が育ち、OHSSリスクがある場合
- 子宮内膜の状態を万全に整えてから移植したい場合
- PGT-Aなどの検査結果を待ってから移植したい場合
- 仕事や体調の都合で、移植時期を柔軟に調整したい場合
現在の日本では、体外受精全体の約8割が凍結胚移植で行われています。凍結技術の進歩により安全性が高まったことが背景にありますが、新鮮胚移植にも独自のメリットがあり、一律にどちらが優れているとは言い切れません。
まとめ
新鮮胚移植と凍結胚移植は、それぞれ異なる特徴を持つ移植方法です。妊娠率のデータでは凍結胚移植がやや有利な傾向がありますが、最適な選択は一人ひとりの身体の状態や治療計画によって変わります。
- 新鮮胚移植は、1周期で完結するスピード感と費用面のメリットがある
- 凍結胚移植は、子宮内膜の準備やOHSSリスク回避の点で柔軟性が高い
- 妊娠率は凍結胚移植が同等〜やや良好だが、個人差が大きい
「自分にはどちらが合っているのか」を主治医と一緒に考えることが、納得のいく治療につながります。疑問があれば、遠慮せず質問してみてください。
