着床前検査とは
着床前検査(PGT: Preimplantation Genetic Testing)は、体外受精で得られた胚の染色体や遺伝子を、移植前に調べる検査です。正常と判断された胚を移植することで、流産率の低減や妊娠率の向上が期待されます。
日本では2022年から日本産科婦人科学会の管理のもとで実施が認められるようになり、対象施設も徐々に拡大しています。
PGTの種類
PGT-A(染色体数の検査)
胚の染色体の数が正常かどうかを調べる検査です。
- 反復着床不全(複数回の移植で着床しない方)や反復流産の方が主な対象
- 染色体数に異常がある胚を移植前に除外することで、流産のリスクを減らし、移植あたりの妊娠率を高めることが期待される
- 2022年から日本産科婦人科学会の臨床研究として実施(2024年以降は医療として実施可能な施設が拡大)
PGT-M(単一遺伝子疾患の検査)
特定の遺伝性疾患の原因遺伝子を持っているかどうかを調べます。
- ご夫婦のどちらかが遺伝性疾患の保因者である場合が対象
- 対象疾患は学会の審査を経て個別に承認される
PGT-SR(構造異常の検査)
染色体の構造的な異常(転座など)を調べます。
- ご夫婦のどちらかに染色体の均衡型転座がある場合が対象
- 転座が原因の反復流産の方に適応されることが多い
PGT-Aの対象となる方
現在、PGT-Aは以下の方が対象とされています(学会の指針による)。
- 反復着床不全(体外受精で2回以上の胚移植不成功)
- 反復流産(2回以上の流産歴)
- 染色体構造異常の保因者
年齢が高いことだけを理由にPGT-Aを希望する場合、現在の日本の制度では対象外となるケースがあります。ただし、制度は変化し続けているため、最新の情報はクリニックに確認してください。
検査の流れ
- 通常の体外受精・顕微授精で胚盤胞まで培養する
- 胚盤胞の栄養外胚葉(将来胎盤になる部分)から数個の細胞を採取(生検)
- 採取した細胞を検査機関に送り、染色体を解析
- 結果が出るまで2〜4週間程度(この間、胚は凍結保存)
- 正常と判断された胚を選んで移植
検査の限界と注意点
PGTは万能な検査ではありません。以下の点を理解しておくことが大切です。
- すべての異常を検出できるわけではない:微小な遺伝子変異やモザイク(正常細胞と異常細胞が混在する状態)は完全には判定できない
- 正常胚=妊娠保証ではない:正常と判定された胚を移植しても、必ず妊娠に至るわけではない
- 検査可能な胚がゼロになる場合がある:すべての胚が異常と判定され、移植できる胚が残らない可能性がある。その場合でも、次の採卵周期で正常胚が得られることはあり、主治医と今後の方針を相談するステップに進める
- 生検自体のリスク:細胞を採取する過程で胚にダメージを与える可能性がゼロではない(ただし、現在の技術では極めて低い)
検査を受けるかどうかは、メリットとデメリットを主治医と十分に話し合ったうえで決めてください。
費用の目安
PGTは保険適用外(自費)です。先進医療として保険診療との併用が認められている施設もあります。
- PGT-A:胚1個あたり5万〜10万円程度
- 複数の胚を検査する場合、検査費用はその分加算される
- 体外受精の費用(保険適用分)とPGTの費用(自費)は別々に計算される
費用は施設によって大きく異なるため、事前に確認しておくことが助けになります。
倫理的な論点
着床前検査には、医学的な判断だけでなく、倫理的な側面も含まれます。「命の選別にあたるのではないか」という議論は、日本でも海外でも続いています。
この問題に対する「正解」はなく、ご夫婦の価値観や状況に応じて判断していくものです。迷いがある場合は、遺伝カウンセラーに相談することもできます。
パートナーの方へ
PGTを受けるかどうかの判断は、二人で共有したいテーマです。検査の内容、費用、結果が出た場合の対応(すべての胚が異常だった場合にどうするか)について、事前に話し合っておくことをお勧めします。
この記事のポイント
- PGTは移植前に胚の染色体・遺伝子を調べる検査
- PGT-Aは反復着床不全・反復流産の方が主な対象
- 正常胚の移植で流産率低減が期待されるが、妊娠保証ではない
- 保険適用外。1胚あたり5〜10万円程度
体外受精の費用とスケジュールについては体外受精の完全ガイドをご参照ください。
出典
- 日本産科婦人科学会「着床前遺伝学的検査に関する見解」
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
