OHSSとは
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)とは、不妊治療で排卵誘発剤を使用した際に、卵巣が過剰に反応して腫れてしまう状態のことです。多くの場合は軽症で、数日から1〜2週間で自然に回復します。体外受精や顕微授精を受ける方にとって知っておきたい知識のひとつですが、適切な予防策と早めの対応で重症化を防ぐことができます。
OHSSが起こるしくみ
排卵誘発剤(hMG製剤やクロミフェンなど)によって複数の卵胞が育つと、卵巣が通常より大きく腫れることがあります。さらに、排卵を促すhCG注射をきっかけに、血管から水分が漏れ出しやすくなり、お腹に水がたまる(腹水)などの症状が現れます。
妊娠が成立すると体内でhCGが分泌され続けるため、症状が長引いたり重くなったりすることもあります。
症状の段階
軽症
もっとも多いのが軽症のケースです。以下のような症状が見られます。
- お腹の張りや軽い痛み
- 軽い吐き気
- 卵巣の軽度な腫れ(5〜7cm程度)
軽症の場合は、安静にしながら水分をしっかり摂ることで、多くの方が自然に回復します。
中等症
軽症よりも症状が強くなり、日常生活に支障が出ることがあります。
- お腹の膨満感が強くなる
- 吐き気・嘔吐
- 体重の急な増加(1日1kg以上)
- 卵巣の腫れが大きくなる(8〜12cm程度)
中等症と感じたら、通院中のクリニックに連絡して指示を仰いでください。
重症
頻度は高くありませんが、以下のような症状が出た場合はすぐにクリニックへ連絡してください。
- 呼吸が苦しい
- 尿の量が極端に減る
- 強い腹痛
- 体重が急激に増える
入院して点滴や腹水の排出などの処置を受けることで、改善が期待できます。
OHSSになりやすい方の特徴
すべての方に起こるわけではありません。以下のような特徴がある方は、主治医と事前に相談しておくと安心です。
- 年齢が若い方(35歳未満):卵巣の反応が強い傾向があります
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方:卵胞が多く育ちやすいため、リスクが高くなります
- AMH値が高い方:卵巣予備能が高く、排卵誘発剤への反応が強くなりやすい傾向があります
- 体格が小柄な方・BMIが低い方:薬の効果が相対的に強く出ることがあります
これらに当てはまる場合でも、刺激方法の調整によってリスクを下げることが可能です。主治医に「OHSSが心配です」と伝えれば、対策を一緒に考えてもらえます。
OHSSを防ぐための工夫
現在の不妊治療では、OHSSのリスクを下げるさまざまな方法が確立されています。
低刺激法・マイルド法の選択
排卵誘発剤の量を抑えた方法を選ぶことで、卵巣への負担を軽減できます。育つ卵胞の数は減りますが、OHSSのリスクも大きく下がります。
全胚凍結(Freeze All)
採卵した周期では胚移植を行わず、すべての胚を凍結保存する方法です。妊娠によるhCG上昇がないため、OHSSの重症化を防ぐことができます。最近では、凍結融解胚移植のほうが妊娠率が高いという報告もあり、多くのクリニックで採用されています。
GnRHアゴニストトリガー
排卵を促す際に、hCG注射の代わりにGnRHアゴニストを使う方法です。hCGを使わないことでOHSSのリスクを大幅に減らせます。主治医が患者さんの状態に合わせて判断します。

「もしかして」と思ったら
採卵後に以下のような変化を感じたら、まずはクリニックに電話で相談してください。
- お腹がいつもより張っている、痛みがある
- 体重が急に増えた(1日500g〜1kg以上)
- 吐き気が続く
- 尿の量が減った
「こんなことで電話していいのかな」と思う必要はありません。クリニックのスタッフは、こうした相談に日常的に対応しています。体の変化を伝えることが、ご自身を守る大切な一歩です。
自宅での過ごし方としては、水分をこまめに摂ることと激しい運動を避けることが基本です。卵巣が腫れている間は、ねじれ(卵巣茎捻転)を防ぐために急な動きは控えましょう。
まとめ
OHSSは排卵誘発に伴う副作用のひとつですが、現在の不妊治療では予防法が進歩しており、重症化するケースは少なくなっています。
- 多くの場合は軽症で、安静と水分補給で自然に回復します
- リスクが高い方には、低刺激法や全胚凍結などの予防策があります
- 体の変化を感じたら、遠慮なくクリニックに連絡してください
治療を進めるなかで不安なことがあれば、主治医に気になることを伝えてみてください。一緒に、ご自身に合った治療計画を立てていくことができます。
