体外受精、「何回で授かれる?」という問い
体外受精を始めた方、あるいはこれから検討している方の多くが、「何回くらいで妊娠できるのだろう」と考えます。インターネットで検索すると、さまざまな数字が出てきて、余計に不安になることもあるかもしれません。
まず知っておいていただきたいのは、体外受精の成功率は年齢や個人の状況によって大きく異なるということです。「何回目で成功した」という体験談は参考にはなりますが、あなた自身の道筋は、あなたとパートナー、そして担当医と一緒に描いていくものです。
この記事では、公的なデータをもとに回数ごとの妊娠率の傾向をお伝えしながら、回数を重ねるなかでの考え方や選択肢についてもお話しします。
回数別の累積妊娠率 — データが示す傾向
日本産科婦人科学会のARTデータブックによると、体外受精・顕微授精の1回あたりの胚移植あたり妊娠率は、全年齢平均でおよそ30〜35%前後です(2022年データ)。ここから累積で見ると、以下のような傾向があります。
- 1回目:約30〜35%の方が妊娠(胚移植あたり)
- 3回目まで:累積で約60〜70%の方が妊娠に至る
- 6回目まで:累積で約80〜85%に達するとする報告もある
この数値はあくまで統計上の平均であり、個人差が非常に大きい点に注意が必要です。1回目で授かる方もいれば、6回以上かかる方もいます。年齢が若いほど1回あたりの成功率が高く、累積妊娠率も早い段階で上がりやすい傾向があります。
年齢別の違い
年齢は体外受精の成功率に大きく影響する要素のひとつです。ただし、年齢だけで結果が決まるわけではありません。
- 35歳未満:1回あたりの妊娠率は約40〜45%。3回以内に妊娠される方が多い
- 35〜39歳:1回あたり約30〜35%。回数を重ねることで累積妊娠率は上昇する
- 40〜42歳:1回あたり約15〜25%。回数を重ねる意義はあるが、方針の見直しも大切になる
- 43歳以上:1回あたりの妊娠率は約5〜10%となりますが、ゼロではありません。この年代で出産に至った方もいらっしゃいます。年齢以外の要因(卵巣予備能、胚の質など)も影響するため、担当医と具体的な方針を相談することが次のステップです
年齢のデータを見て不安を感じた方もいるかもしれません。ただ、これらは集団の平均値です。同じ年齢でも卵巣の状態や精子の質、子宮環境は人それぞれ異なります。あなたの数字は、あなた自身の検査結果と治療経過から見えてきます。

採卵回数と移植回数は分けて考える
「体外受精3回目」と言っても、採卵3回なのか、移植3回なのかで意味が大きく異なります。
採卵回数
卵子を採取する回数です。排卵誘発の注射や通院が必要で、身体的・経済的な負担が大きいステップです。1回の採卵で複数の受精卵(胚)が得られれば、凍結保存して複数回の移植に使えます。
移植回数
凍結胚を子宮に戻す回数です。採卵に比べて身体への負担は軽く、費用も抑えられます。
例えば「採卵1回・移植3回」の場合、身体への負担は「採卵3回・移植3回」とは大きく異なります。担当医と話す際には、「あと何回移植できる胚があるか」「追加の採卵が必要か」を確認しておくと、見通しが立てやすくなります。
貯卵(胚バンキング)という考え方
特に年齢が気になる方の場合、複数回の採卵で胚を貯めてから移植する方法(貯卵)を提案されることがあります。移植可能な胚のストックがあると、精神的にも少し余裕が生まれます。
回数を重ねるごとの方針見直し
体外受精は、同じことを繰り返すだけの治療ではありません。うまくいかなかった周期からも、次に活かせる情報が得られます。
1〜2回目で確認すること
- 採卵数は十分か(卵巣刺激の方法が合っているか)
- 受精率はどうか(通常の体外受精か顕微授精か)
- 胚のグレードはどうか
- 子宮内膜の厚さは十分か
3回目以降で検討すること
良好な胚を複数回移植しても着床しない場合、「反復着床不全」と呼ばれる状態かもしれません。以下のような追加検査・対策が検討されます。
- 子宮内膜検査:ERA検査(着床の窓のずれを調べる)、EMMA/ALICE検査(子宮内フローラ)
- 着床障害の検査:不育症の血液検査(抗リン脂質抗体など)
- 胚の染色体検査:PGT-A(着床前遺伝学的検査)の検討
- 培養環境の見直し:タイムラプス培養、胚盤胞培養への変更
- 移植方法の工夫:アシステッドハッチング、SEET法、子宮内膜スクラッチなど
回数を重ねることは、ただ「もう一度トライする」だけではなく、「前回の結果をもとに、次はここを変えてみる」という改善のプロセスです。担当医にその方針をしっかり確認することが大切です。
転院という選択肢
同じクリニックで何度か治療を受けても結果が出ない場合、転院を検討することは前向きな選択です。クリニックによって得意な治療法や培養技術、検査体制が異なるため、環境を変えることで新しい可能性が開けることがあります。
転院を検討するタイミング
- 良好胚を3回以上移植しても着床しない場合
- 治療方針の説明が不十分だと感じた場合
- 提案される選択肢が限られていると感じた場合
- 通院の負担が大きすぎる場合
転院時に確認しておくこと
- 紹介状の作成:これまでの治療歴、検査結果、使った薬剤の情報を持っていく
- 凍結胚の移送:凍結胚がある場合は、転院先への移送が可能か確認
- 保険適用の回数カウント:保険適用の回数制限はクリニックが変わっても通算される
転院は「今のクリニックが悪い」ということではありません。異なる視点からの評価を受けることは、セカンドオピニオンと同じく医療において自然な行動です。
「あと何回」の不安との向き合い方
体外受精を繰り返す中で、「あと何回続ければいいのだろう」「いつまで続ければいいのだろう」という不安は、ほぼ全ての方が感じることです。この問いに明確な答えはありませんが、不安を少しでも和らげるための考え方をいくつかお伝えします。
「区切り」を自分で設定する
終わりが見えない治療は、精神的に消耗します。「次の3回で一区切り」「年内にもう2回やってみる」など、自分たちなりの区切りを設けると、漠然とした不安が少し具体的になります。区切りの時に止めなければならないわけではなく、そこで立ち止まって考える時間を作るという意味です。
「やめる」も一つの決断
治療を続けることだけが正解ではありません。治療を一時休止する、あるいは治療を終了するという選択も、立派な決断です。
- 身体的・精神的に限界を感じた時
- 経済的な負担が生活に影響し始めた時
- パートナーとの間で温度差が大きくなった時
こうしたサインは、治療を見直す大切なきっかけです。
支えを見つける
治療中の不安は、一人で抱え込むと大きくなります。以下のような支えを活用してみてください。
- パートナーとの対話:「今どう思ってる?」と定期的に確認し合う
- 不妊カウンセラー:医療の知識を持った専門家に気持ちを話す
- 当事者コミュニティ:同じ経験をした方の存在が、孤立感を和らげてくれます
- 治療以外の時間:趣味や仕事など、治療以外の「自分」を大切にする
この記事のポイント
- 体外受精は3回までの累積妊娠率が約60〜70%。ただし個人差が大きい
- 採卵回数と移植回数は分けて把握することが大切
- 回数を重ねるごとに、前の結果をもとに方針を見直す「改善のプロセス」にする
- 転院は前向きな選択肢のひとつ
- 「あと何回」の不安には、自分なりの区切りを設けることで向き合える
体外受精の流れについては体外受精の基本の記事を、費用については費用の記事をご参照ください。保険適用の条件は保険適用の記事でまとめています。
出典
- 日本産科婦人科学会「ARTデータブック 2022」
- 厚生労働省「不妊治療に関する取組」
- Malizia BA et al. "Cumulative live-birth rates after in vitro fertilization." NEJM (2009)
